2024年4月30日 ロンドンの食は今も昔も歴史とともに
美食の国フランス、多彩な食材を楽しむスペイン、素材の味を引き出すイタリア、というようにヨーロッパ旅行の目的が「食」という方は少なくありません。でも、同じヨーロッパなのに、イギリスにおいしいご飯を食べに行きます、という方には会ったことがありません。シェークスピア、ビートルズ、バンクシーにハリーポッター、大英博物館やたくさんの美術館など、文化や歴史をテーマとしたツアーはたくさんあるのに、食がテーマのツアーは皆無です。それは、イギリス人にとっての食は、人材や文化の次で良かったからのようですが・・・。とは言え、折角ロンドンを訪れたら体験してほしい食はあります!ということで、今回は、歴史と思想が詰まったロンドンの食事情をご紹介しましょう。
先ずは、皆さんご存じのハロッズやフォートナム&メイソンなど、歴史ある百貨店に足を運んでください。イギリスの食は、紅茶を中心とした貴族の食文化である、とすぐに実感できます。広々とした絢爛豪華な売り場に、所狭しとありとあらゆる紅茶と紅茶関連グッズ、紅茶に合うお菓子や食材、調味料などが並びます。
イギリスで紅茶文化が最盛期を迎えたのは、ヴィクトリア女王が君臨したヴィクトリア朝のころ。当時のランチは軽食で、上流階級のご婦人たちは夕方から始まる観劇などの社交に忙しく、夕食が遅くなってしまうため、午後の空腹を紛らわせる紅茶とお菓子を楽しんだのがアフタヌーンティーの始まりといわれています。素敵な三段のティースタンドに、下段からサンドイッチ、スコーン、ケーキが盛られ、紅茶と一緒に運ばれます。基本的にお代わりは自由ですが、大変ボリュームがあるので気をつけて!正式には、下の段から順にいただきますが、好きに食べてもマナー違反ではありません。
上段にケーキのひとつとして添えられるのは「ヴィクトリア・サンドイッチケーキ」で、女王の名前が冠されたこのケーキは、夫であるアルバート公を亡くして喪に服していた女王を慰めるために考えられたそうで、スポンジケーキの間にジャムをはさんだだけのシンプルなケーキです。
中段のスコーンに添えられるのは、ストロベリージャムと、生クリームとバターの中間のようなクロテットクリームで、焼きたてスコーンとの相性は抜群です。
そして、アフタヌーンティーの陰の主役が「きゅうりサンドイッチ」であることをご存知ですか?今でこそ、庶民の野菜ですが、ヴィクトリア朝のころ、上流階級は広大な農園を経営していて、収穫したばかりのきゅうりをパンにはさんでゲストをもてなすことは、広い農園を維持する財力を持っている証、つまり、きゅうりは富の象徴で高級食材だったのです。
歩き疲れたら、是非ともティーサロンに寄って、伝統のアフタヌーンティーを体験してください。ロンドン中のホテル、宮廷内や街のカフェでも正統派を楽しめますが、時間や胃袋、予算に余裕がない方は、紅茶とスコーンのセット「Cream Tea(クリーム ティー)」もおススメです。
次にご紹介するのは「ヴィクトリア&アルバート美術館(V&Aミュージアム)」です。食のお話では?と思いましたよね。今では世界中の博物館や美術館にカフェが併設されていますが、ここは、1851年に世界初、レストランがある美術館としてオープンしました。今はミュージアムショップが入口にありますが、開館当初、美術館の入り口には先ずレストランがありました。「あらゆる人々に美術作品を鑑賞する機会を与え、労働者の教養を高め、国内のデザイナーや製造業者に創造的刺激を与えること」を目的に、創設者のアルバート公が"芸術を鑑賞するにはまずは空腹を満たしてから!"との発想から、世界初、美術館にレストラン・カフェを併設したと伝えられています。
その後、移転や改築を経て1868年に現在のギャンブル・ルーム、ポインター・ルーム、グリーン・ルームの3部屋が並んだカフェが完成しました。それぞれの部屋は、3人の有名デザイナーが競ってデザインし、クラシックな雰囲気が漂うステキな空間です。特にウィリアム・モリスが内装を手掛けたグリーン・ルームは、モリスのデザインが施されたステンドグラスや壁紙、柱、天井の装飾が、モリス・ファンにとっては夢のような空間で、一杯のお茶を楽しむだけでも贅沢な時間を過ごせます。
いかがですか?おいしいだけではない、歴史と文化を味わうロンドンの食。次回は市場やパブの様子をレポートします。
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