アローダイアグラム
アローダイアグラムはプロジェクトの進行管理に利用する!
アローダイアグラムは、作業内容と日程の流れを表した図のことです。○と→を組み合わせて、左端の○から右端の○に至るまでに、どのような作業を、どのような順番で、どれぐらいの日程で行うのかを表しており、例えば次のような図になります。
アローダイアグラムを見ると、プロジェクトを完了させるまでに最低限必要な時間と、予定通りにプロジェクトを完了するためには、どの行程に遅れがでてはいけないのか、どの作業には比較的余裕があるのかなどを把握することができます。プロジェクトの進行管理に利用するものなんですね。
アローダイアグラムを書いてみよう!
では、アローダイアグラムはどのように見ればよいのでしょうか?アローダイアグラムの見方を理解するために、簡単なアローダイアグラムを書いてみましょう。
あなたは、部屋の模様がえをすることにしました。古くなった壁紙を新しいものに貼りかえ、本棚を新調します。本棚は倒れないよう、貼りかえた壁にしっかりと固定したあと、本を収納します。また、これを機に、本棚に収納する本を整理し、いらない本を処分することにしました。
壁紙と本棚の発注・納品、壁紙の貼りかえ、本棚の設置、本の整理、本の収納という一連の作業に必要な日数は次のとおりです。
この作業の流れをアローダイアグラムにしてみましょう。
まず、起点となる最初の○を書きます。
ここから、作業の→を書きます。最初に行うことのできる作業は、3つあります。壁紙の発注・納品、本棚の発注・納品、本の整理です。この3つは、その前に必ずやっておかなくてはならない作業というものがありません。いつでも始められるものですので、3つとも、最初の○からでる→として書き、→の先に結合点となる○を書きます。
このとき、
のように、書かないことに注意しましょう。
○と○をつなぐ→は1本だけ、というのが、アローダイアグラムのルールです。
次に、壁紙の発注・納品、本棚の発注・納品、本の整理に続く作業の→を書きます。
壁紙が納品された後に行う作業は、壁紙の貼りかえ、本棚が納品された後に行う作業は、本棚の設置、本の整理の後に行う作業は、本の収納です。
さて、それぞれ→を書くのはいいですが、→の先はどの○につなげるのでしょうか。ここで、作業の前後関係を考える必要がでてきました。壁紙は、納品されたらすぐに貼りかえられますが、本棚は壁紙を貼りかえた後に設置する必要があります。本棚の設置よりも先に、壁紙の貼りかえが終わっていなければならない、ということですね。また、本の収納は本棚が設置された後に行う必要があります。本の収納よりも先に、本棚の設置が終わっていなければならない、ということです。
まず、本棚を中心に作業の流れを書くと、
この図に、壁紙の流れを加えると、
本棚の設置の前の○につなげることで、前後関係がはっきりしましたね。
最後に本の整理→本の収納という流れが残りました。これも壁紙と同じように、本の収納の前の○につなげると、
と、なりそうですが、ここで問題が発生します。本の整理をしたあとは、すぐに本の収納を行うことができます。この間に必要な作業はありません。オレンジの→には記述する作業がないのです。
このようなときに、使用されるのが「ダミー作業」と呼ばれる点線の→です。ダミー作業は、それ自体に作業はありませんが、作業の前後関係を明確にするために記述されます。
これで、部屋の模様がえのアローダイアグラムが完成しました。
部屋の模様がえにかかる最短所要日数を求めよう!
では、部屋の模様がえを完了するために、最短で何日かかるか、アローダイアグラムから読みとってみましょう。
「最短」という言葉だけを見ると、最も日数が少ない?と思いますよね。アローダイアグラムに書かれた作業とその日数を見ると、一番日数が少ないのは、「本の整理3日」→「本の収納1日」の経路のように思えます。この→に書かれた作業日数の合計は4日です。では、部屋の模様がえは4日あれば最初から最後まで完了することができるでしょうか?できないですよね。だって、本棚の納品には5日かかるし、壁紙の納品には10日かかります。さらに、そのあとに壁紙の貼りかえ、本棚の設置をして、はじめて本の収納作業にとりかかれるわけですから、本の整理が3日で終わっても、本棚の設置が終わるまで、本の収納作業は待たなければなりません。
では、あらためて最短で何日かかるか、考えていきましょう。
本の収納の前には、本棚の設置1日があります。本棚の設置の前には、本棚の発注・納品5日と、壁紙の貼りかえ2日+壁紙の発注・納品10日があります。本棚自体は5日で届きますが、本棚の設置作業に入るには、壁紙の貼りかえ作業を待つ必要があります。さらに、壁紙を貼りかえるには、壁紙の納品10日を待たなければなりません。
ということは、部屋の模様がえを完了するために、必要な日数は、
壁紙の発注・納品10日+壁紙の貼りかえ2日+本棚の設置1日+本棚の収納1日=14日
となり、これよりも短い日数で完了させることはできないことから、
最短所要日数=14日
ということになります。
最短所要日数とは、プロジェクト全体を終了させるために「最低限必要な日数」であると考えると理解しやすいですね。
部屋の模様がえのクリティカルパスを求めよう!
クリティカルパスとは、critical=重要な、path=経路、すなわち、プロジェクトの全工程を最短所要日数で終了させるために重要となる経路のことです。予定した日数から遅らせてはいけない、遅れるとプロジェクト全体に遅れが生じる作業経路、それがクリティカルパスです。
ここで、部屋の模様がえの最短所要日数の経路を見てみましょう。
壁紙の発注・納品10日→壁紙の貼りかえ2日→本棚の設置1日→本の収納1日 でした。この経路上にある作業のどれか1つでも遅れが生じたらどうなるでしょうか。壁紙の貼りかえに3日かかってしまったら?14日だった最短所要日数が、1日増え、15日になってしまいます。プロジェクト全体に遅れがでてしまいますね。
一方、この経路上にない本の整理に7日かかってしまったとしても、本棚の設置が完了するまでには、13日ありますので、まだ6日の余裕があります。プロジェクト全体の遅れとはなりません。
このように、プロジェクト全体に影響のでる経路=最短所要日数となる経路が、クリティカルパスになります。
したがって、部屋の模様がえにおけるクリティカルパスは、
壁紙の発注・納品→壁紙の貼りかえ→本棚の設置→本の収納
です。
プロジェクトマネジメントでは、クリティカルパスに遅れが生じないように、管理する必要がある、ということですね。
複雑なアローダイアグラムの最短所要日数とクリティカルパスを求めてみよう!
部屋の模様がえのアローダイアグラムは、作業経路を一つずつたどりながら、最短所要日数とその経路であるクリティカルパスを求めました。本来、アローダイアグラムは、このように作業経路をたどって読みとくものですが、試験においては時間の使い方も大切です。
プロジェクト全体に影響のでる経路=最短所要日数となる経路=クリティカルパス ということは、アローダイアグラムで最も時間のかかる経路を求めれば、それがクリティカルパスであり、クリティカルパスでかかる時間が最短所要日数である、と言うことができます。
部屋の模様がえのアローダイアグラムで確認してみましょう。
このアローダイアグラムには、3つの経路がありました。
① 壁紙の発注・納品10日→壁紙の貼りかえ2日→本棚の設置1日→本の収納1日 ...14日
② 本棚の発注・納品5日→本棚の設置1日→本の収納1日 ...7日
③ 本の整理3日→本の収納1日 ...4日
この中で最も時間がかかる経路は①です。すなわち①の経路がクリティカルパスであり、最短所要日数は14日です。最初に求めた最短所要日数とクリティカルパスに、一致しましたね。
それでは、この手法を使って、冒頭のアローダイアグラムにおける、最短所要日数とクリティカルパスを求めてみましょう。
このアローダイアグラムには、次の5つの作業経路があります。
① A→F→H ...所要日数:7+4+5=16日
② B→D→F→H ...所要日数:3+3+4+5=15日
③ B→E→H ...所要日数:3+7+5=15日
④ C→G→H ...所要日数:6+4+5=15日
⑤ C→I ...所要日数:6+8=14日
最も時間のかかる経路は、16日かかる①の経路です。
したがって、このアローダイアグラムにおける最短所要日数は16日、クリティカルパスはA→F→Hとなります。
最短所要日数とクリティカルパスから、遅れが許される作業を求めてみよう!
試験で出題される問題は、最短所要日数とクリティカルパスを求めるものだけではありません。提示されたアローダイアグラムを見て、どの作業がどれだけ遅れても許されるのか、全体の遅れを取り戻すのにどの作業を何日短縮すればよいのか、などのように、プロジェクトのマネジメントに関連した形で出題されることも多々あります。
部屋の模様がえのアローダイアグラムから、マネジメントに関する例題を解いてみましょう。
最短所要日数とクリティカルパスに影響を与えずに、本の整理は何日間までかけることができるでしょうか。
本の整理は、本棚の設置完了と同時に作業を終わらせれば、クリティカルパスである本の収納作業に影響がでません。クリティカルパス上にある本棚の設置までの日数は、10+2+1=13日ですので、本の整理には、最大で13日間かけることができます。3日間の予定でしたが、だいぶ余裕があることがわかりましたね。
ところが、10日間の予定だった壁紙の納品が、交通事情で11日かかってしまいました。最短所要日数に影響を与えずに、部屋の模様がえを完了するには、次のうちどの作業を短縮すればよいでしょうか。
ア 本棚の発注・納品
イ 本の整理
ウ 壁紙の貼りかえ
エ どの作業も短縮する必要はない
壁紙の納品はクリティカルパス上にある作業です。この作業に1日多くかかってしまったということは、最短所要日数が1日増えてしまったということです。これを元に戻すためには、クリティカルパス上の作業を1日減らす必要があります。選択肢の中で、クリティカルパス上にある作業はウの壁紙の貼りかえですね。ですので、最短所要日数に影響を与えず、部屋の模様がえを14日間で終了するためには、壁紙の貼りかえを短縮し、1日で終わらせる必要があります。
アローダイアグラムの問題では、最短所要日数とクリティカルパスを、常に意識するようにしましょう。
アローダイアグラムの問題を解いてみよう!
それでは、実際に出題された問題を解いてみましょう。
平成22年春 問35
図のアローダイアグラムで、AからGに至る全体の作業日数に影響を与えないことを条件に、C→Fの作業の遅れは最大何日間まで許容できるか。
ア 1 イ 2 ウ 3 エ 4
正解は...
正解 エ
最初に、最短所要日数とクリティカルパスを求めましょう。このアローダイアグラムには、次の5つの経路があります。
A→B→D→F→G ...所要日数:3+4+6+4=17
A→C→D→F→G ...所要日数:3+3+6+4=16
A→C→F→G ...所要日数:3+6+4=13
A→E→F→G ...所要日数:7+4+4=15
A→E→G ...所要日数:7+7=14
このことから、最短所要日数は17日、クリティカルパスはA→B→D→F→Gであることがわかりました。
結合点Fに至るまでのクリティカルパスは、A→B→D→F(13日)です。C→Fに至るまでの経路は、A→C→F(9日)です。A→C→Fの経路では、クリティカルパス上にある経路の所要日数13日までは、作業に遅れがでても全体に影響は生じませんので、13-9=4日間まで、遅れが許容されます。
したがって、エの4が正解です。